หน้าหลัก / ファンタジー / 生きた魔モノの開き方 / 12品目:ヴァルドルのフルコース ~舌と腕肉のステーキ~

แชร์

12品目:ヴァルドルのフルコース ~舌と腕肉のステーキ~

ผู้เขียน: 8ツーらO太!
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-04-16 11:00:00

 刑務官事務所の片隅で、僕は魔導通信機の受話器を握っていた。

「ネイヴァンさん、エルドリスから伝言を預かっています」

 受話器の向こうから、退屈そうな声が返ってくる。

「おいおい、エリィの声が聞きたかったのに、きみかあ。……で?」

「『パーティ次第だ』と」

 一瞬、沈黙があった。

 次に聞こえたのは、ククッという笑い声。

「へえ、そいつは面白い」

「そうなんですか? 僕には何が何だか」

「エリィに伝えてくれ。『衣装を用意する』ってな」

 また伝言ですか、という文句は飲み込み、「わかりました」と返す。

 僕にはもうひとつ、この男に確認したいことがあった。その答えを得るためにも、相手の機嫌を損ねるのは得策ではない。

「ネイヴァンさん、教えてください。あなたが用意したA級魔物ヴァルドル。あれは、魔物なんですよね?」

「ふうーん?」

 何故そんなことを聞く、とでも言いたげな声が上がる。それもそのはず。『30分クッキング』は魔物を調理する番組であり、食材として用意される肉はすべて魔物だ。

 だがそのうえで、ネイヴァンは僕の真意を察したらしい。彼はきちんと、僕と同じ世界観の答えを返してきた。

「まあ、エリィの答えを聞く限り、あの魔物は確かに魔物だったんだろうよ」

「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」

 今日も生放送が始まる。

「本日はヴィアンド(肉料理)として、ヴァルドルの腕肉――」

「舌と腕肉の二種のステーキを作る」

อ่านหนังสือเล่มนี้ต่อได้ฟรี
สแกนรหัสเพื่อดาวน์โหลดแอป
บทที่ถูกล็อก

บทที่เกี่ยวข้อง

  • 生きた魔モノの開き方   13品目:ヴァルドルのフルコース ~指のデセール、頭蓋骨と骨髄液のカフェ・エ・プティフール~

     出勤するやいなや、魔導通信機の受話器を持った上官に手招きされた。「お前にだ。ネイヴァン・ルーガス氏から」 昨日のメニュー変更の件かもしれない。 受話器を受け取って「もしもし」と応答すると、早速不機嫌そうな声が耳に飛び込んできた。「きみさあ、困るんだよねえ。エリィをちゃんとコントロールしてくれないとぉ」「すみません。昨日のメニューのことですよね?」「それ以外に、なぁにがあるんだよ」「すみません」「まあきみ程度のひよっこにエリィは乗りこなせんだろうなぁ。初めっから期待しちゃいないが」「あの」「なぁんだよ。弁明でもするかぁ?」 ついでだから言ってしまおう。「エルドリスからまた伝言があります。『三日は待たない』と」「わぁかった、わかった、『明日だ』って言っておけ」「明日って、何がです?」「ああ? 俺は忙しいんだ。エリィに聞けよ」 通信が切れた。正確には、一方的に切られた。 ため息を吐く僕を、上官が見ないふりしていることにも僕は気づいていた。  ◆「皆さま、こんにちは。『30分クッキング』です」 笑顔の能面にも慣れてきた。「本日は、フルコースの締めくくりとして、デセールとカフェ・エ・プティフールを作ります」 僕がそう告げる後ろの調理台で、魔物の深い呼吸音が響いていた。 そうだ。今日はいつもと違う。ヴァルドルは生放送の前から調理台の上に上半身をうつ伏せる形で、首と右腕を固定されている。 その光景をバックに僕とエルドリスは並んでオープニングを撮っていた。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-17
  • 生きた魔モノの開き方   14品目:魔ココジュース

    「おいおいエリィ、もう少しそっちへ寄らせてくれよ」「うるさい。肘から先を失いたくなければ気をつけの姿勢で黙っていろ」「酷いぜまったく。なあ、新人監督官殿?」「ううっ、苦しい……」 ぎゅうぎゅう詰めの檻の中で、エルドリスはできる限りネイヴァンから距離を取ろうとしていた。しかし、狭い空間では限界がある。逆にネイヴァンはこれ幸いとばかりにエルドリスに密着しようとし、そのたびに肘打ちや足蹴りを食らっていた。その流れ弾が僕にも当たる。 通常、この転送用の檻は、死刑囚一人を島へ送るためのものだ。ゆえに狭い。極端に狭い。なのに今、この中には僕、エルドリス、ネイヴァンの三人が詰め込まれている。身動きはほとんど取れない。僕はエルドリスの肩に頭を押し付けられ、ネイヴァンの膝に挟まれたまま、完全に潰されそうになっていた。三人の中で一番背が低い僕にとって、この圧迫は地獄そのものだ。「うっ……死んじゃう……」「ネイヴァン・ルーガス。私に膝を当てるな、気色悪い。脚まで切り落とされたいか」「エェェリィィ……俺は今、最高に傷ついてるぜぇ?」 こんな状態で、本当に転移できるのだろうか。「準備はいいか」 檻の前に立った上官の声が響く。いいわけがない。「転送開始!」 合図とともに、檻の周囲に魔法陣が展開し、光が視界を満たした。 次の瞬間、僕たちは檻ごと別の場所へと投げ出された。 転移の衝撃で、体がぐちゃっと潰されそうになる。視界がぐるぐる回り、気づけば僕は檻から転がり出て、黒い砂の広がる砂浜に転がっていた。「うっ……」

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-18
  • 生きた魔モノの開き方   15品目:煙葉魔(スモーグ)で一服

    「血統?」 とエルドリスが問うた。ネイヴァンが片頬を引き上げて笑う。「まあ、エリィは知らないか。知ってるのは帝国の中でも一部の貴族や軍のお偉方くらい。あとは、長生きな爺さん婆さんとかな」「もったいぶらずに端的に言え」「はいはい、わかったよ。ネイファ家っていったら、良い意味でも悪い意味でも一目置かれている一族だ。先祖が魔物と交わったっていう」 ネイヴァンは片手の指で輪を作り、そこにもう片方の手の指を差し入れる。「……くだらん」 エルドリスは呆れ顔でひと言発すると、ネイヴァンから顔を背け、黒い砂浜のあちこちにバラバラと転送されてきた調理器具や荷物の整理を始めた。「ネイヴァンさん。やめてください、その話」 僕は意を決して言う。「なんでだよ。俺はいい意味で一目置いてる側だぜ? なにせネイファ家には数十年に一度、隔世遺伝か何かで変わった能力を持つ子どもが生まれるんだろ?」「……僕は違います」「いいや、きみがそうだと聞いてるぜ?」「誰から」「そりゃあ企業秘密だ。バラしたら俺の信用に関わる。で、実際のところ、きみの"もうひとつの胃"ってのはどんなもんなんだ?」 そんなところまで知っているのか。 僕は首を左右に振った。「知りません。デマでしょう、そんな話」 それ以上この話を続けたくなくて、ネイヴァンから離れる。そしてエルドリス同様、黒い砂浜の上に散らばった調理器具やらなんやらを拾っていく。 だがネイヴァンはしつこく僕についてくる。「いいじゃあないか、教えろよ。きみの能力がわかれば、『30分クッキング』の演

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-19
  • 生きた魔モノの開き方   16品目:リーピッドの丸焼き

    「そうだ、忘れていた」 ネイヴァンが急に立ち上がり、木箱の中を探り始めた。エルドリスと僕が訝しげに見つめていると、彼は満面の笑みで振り返る。「衣装に着替えようじゃあないか」「はい?」 と思わず声が出る。「せっかく死刑囚島《タルタロメア》に来たんだ。いつもの黒い革エプロンじゃつまらん。きみたちそれぞれに合った衣装を用意しておいた」 ああ、またこの演出家が変なことを言い出した。 エルドリスが承知するはずがない、と思って彼女を振り向いてみたが、彼女は不機嫌そうに腕を組んでいるだけで、黙ったままだった。 僕はふと、何度か仲介させられた伝言のひとつを思い出した。『衣装を用意する』 ネイヴァンはそう僕に言《こと》づけ、僕はエルドリスに伝え、エルドリスは何も言わなかった。つまりはその時点で”無言は肯定”の承知をしていたのかもしれない。不承不承《ふしょうぶしょう》だろうが。 ネイヴァンは僕たちとの温度差を意に介さず、木箱の中から衣装を取り出した。「ほら、エリィの分だ。ちゃんと着るって約束したよな?」「馬鹿言え、約束はしていない」「だが、死刑囚島《タルタロメア》にきみを連れてくる条件のひとつと受け取ったはずだ。勘の良いきみならな」「……チッ、食えんやつめ」 結局僕もエルドリスも、ネイヴァンの執拗な押しに負けて、着替えることになった。 衣装はそれぞれ、島の探索に適したものが選ばれていた。 エルドリスは、黒い狩猟服にマントを羽織り、膝丈のブーツを履いている。動きやすさを重視しながらも、彼女の持つ威圧感を損なわないデザインだ。&

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-19
  • 生きた魔モノの開き方   17言目:お前が食べて判別しろ

     森の奥へ進むにつれ、空気が変わってきた。どこか肌にまとわりつくような不快感があり、湿った土の匂いも強くなっている。葉擦れの音すらどこか不気味に感じる。「エルドリス、まだ進むんですか?」「当然だ」「でも、死刑囚島《タルタロメア》は、中心部へ行けば行くほど上級魔物が多くなると聞きました。この辺りで一度――」「戻りたければ、勝手に戻れ」 彼女は僕を振り返ることもなく言った。その背中はあまりにも迷いがなかった。 本気ではないが、思わず言いたくなってしまう。「……あなたを拘束魔法で縛って浜辺へ連れ戻すことだってできますよ」「珍しく監督官らしいことを言うな。だがそんなことをしてお前に何の得がある。低級魔物ばかり開いていても、視聴者は満足しないぞ」「確かに視聴率を考えれば、あなたが上級魔物を捕らえて開いてくれた方がいいに決まってます。でもそれ以前に僕には、監督官としてあなたの命を守る義務があるんです」「ハッ、終身刑の囚人の命など」「あなたは死刑囚ではありません」 僕がそう言うと、エルドリスは振り返って立ち止まり、溜息をついた。それからネイヴァンに目で合図を送る。 ネイヴァンは小さく頷くとカメラのスイッチを切り、休憩とばかりに近くの木にもたれた。 僕は二人の阿吽の呼吸のようなものに戸惑い、真意を求めてエルドリスを見る。 彼女の青水晶のような瞳は、真っ直ぐ僕へと向けられていた。「この島には、目的があって来た」「目的……って、『30分クッキング』の特別企画でしょう?」「それは建前だ。私はこの島で、"魔物にされた人間"を探したい」「えっ」 短い静寂。森の遠い奥の方から、魔物の唸るような鳴き声が聞こえる。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-20
  • 生きた魔モノの開き方   18手目:魔性という名の魔法

    「ほう、お前の能力は識嚥《シエ》というのか」 エルドリスの口元に薄く笑みが浮かぶ。「それで、お前の言いぶりだと識嚥《シエ》は"魔物にされた人間"の判別に使えるようだな。一体どんな力なんだ?」「え……知ってるんじゃないんですか?」「私はさっき砂浜で、お前とネイヴァン・ルーガスが話すのを聞いただけだ。だが"もうひとつの胃"、その名だけで大方、能力の予想はついた。胃に入ったモノに関する魔法を使えるとか、成分を分析できるとか。それが生物だった場合、能力を奪える、記憶を読める、とかな。いずれにしても何らかの形で、胃に入れたモノの正体を暴ける能力だろうと考えた」「……鎌をかけたんですね! 卑怯です!」「そう怒るな。お前が悪い」「なんで僕が!」「私に能力を隠していたな。酷いじゃないか、私はお前に延命魔法で妹を生き長らえさせた話までしたのに。それでなくとも監督官であるお前は私の出自、年齢、身長、体重、使える魔法、今朝食べたものまであらゆる情報を得ているだろう」「そ、それはだって、被監督者の基本情報を知っておくことは監督官の義務ですし」「公平《フェア》じゃないと思わないか? 私とお前は盃を交わした対等な同志のはずなのに」 駄目だ、言い負かされる。 反論の言葉が出てこなかった。どうしようもなくて俯いていると、彼女が僕に歩み寄り、僕の正面で足を止めた。 白い綺麗な手が視界に入ったかと思うと、その手は蝶のようにひらりと動いて僕の顎先に留まり、俯く僕の顔をクイと持ち上げる。 僕を見下ろす青い瞳。まるで氷の結晶が光を受けて輝くような、冷たくも美しい。「私に教えてくれないか、お前のすべてを」 それは魔法だった。 知っている。彼女の魔力は延命魔法にし

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-20
  • 生きた魔モノの開き方   19食目:クラーグルの切れ端

    「何だ? ぐずぐずしている時間はないぞ」 彼女はナイフを振りかぶったまま、訝しげに僕を見下ろす。「クラーグルの一部を、ほんの少しだけ切り取ってください」「なんだと?」「お願いします。僅かですが勝算があるんです」 エルドリスは考えるような表情を見せたが、すぐにクラーグルに向き直り、ネイヴァンから最も遠い触手の先へとナイフを投げた。 触手は1cmにも満たない幅だけ切り取られ、音もなく地面に落ちる。ネイヴァンを捕らえる触手たちに大きな動きはない。「これでいいか」「はい!」 僕はうねうねと動き続けるそれに駆け寄って素早く拾った。「おい、何をする気だ」 エルドリスが背後で戸惑うような声を上げるが、答えている余裕がない。僕がこれから何をするか、彼女の位置からは見えないだろう。 僕は触手の切れ端を口に入れ、ごくんと飲み込み、二つある胃のうち、識嚥《シエ》へと落とした。 次の瞬間、視界が明滅し、目を開いているのに暗転する。 たった一度だけ味わった、あの嫌な感覚。 クラーグルの記憶が流れ込んでくる。――――― 長い手足を木々に絡ませ、植物に擬態して、ただ待つ。 幼いころから繰り返してきた狩り。 研ぎ澄まされた感覚が、獲物の気配を捕らえる。 音がする。 小枝が折れた。 空気が揺れる。 獲物が近づいてくる。 距離が縮まる。 あと少し。 獲物が完全に射程内に入る。 ここだ。 瞬時に絡みつく。 迷いはない。 獲物の全身に触手を這わせ、がんじがらめにする。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-21
  • 生きた魔モノの開き方   20品目:クラ―グルの活け造り

     夜の帳が下りる中、焚き火の炎が砂浜を揺らめかせる。「皆さま、こんばんは。『30分クッキング』です」 いつものように調理台の手前に立ち、僕は魔導カメラへ語る。「本日も特別企画として、死刑囚島《タルタロメア》よりお届けしております。食材はこちら、クラ―グルです」 調理台の上に横たわるのは、蛸に似た巨大な魔物。無数の触手は束ねられて、ぎちぎちと締め上げられているが、まだ抵抗の意思があるのか、拘束の下でしきりに蠢《うごめ》いている。「クラ―グルはA級魔物に分類される非常に危険な存在ですが、味は絶品と言われています。本日はこのクラ―グルを、活け造りにしていきます」 エルドリスがナイフを手に取り、クラ―グルの巨体に歩み寄る。「まずは、触手の一本を開く」 刃が触手の表皮に触れた瞬間、クラ―グルが激しくもがき出す。しかし、エルドリスは構わず、縦一直線に浅く切り込みを入れた。そして切り込みに両手の親指を差し入れる。「クグルゥゥゥゥ……ガァ……」 ズルッ、メリメリッと嫌な音を立てて皮を剥いでいく。剥ぎ終えると、手際よく内側の肉を削ぎ始める。「ピィィィィィィィ……ギャアアア……」「薄く削いだ方が、食感が良くなる」 削ぎ取られた肉は透き通るような白色。それを、まだ生きているクラ―グルの顔の上に飾り付けていく。趣向を凝らした活け造りだ。「次に、頭部を処理する」 エルドリスは、クラ―グルの頭部に垂直に刃先を当てる。そして体重をかけて刺し込む。

    ปรับปรุงล่าสุด : 2025-04-22

บทล่าสุด

  • 生きた魔モノの開き方   32失目:さよなら

     僕はというと、ネイヴァンが戦っている間、自分自身に強化魔法を掛けていた。このあとネイヴァンに掛けることになる回復魔法の威力をできる限り上げるためだ。「助手君」 戦闘に目を向けたままエルドリスが僕を呼ぶ。「十五分で……いけそうか?」「五分五分、といったところです。あの、回復魔法が間に合わなかったら、延命魔法の重ね掛けもできるんですよね? 妹さんにやっていたって……」 碧い瞳が一瞬睨むように僕を見て、また前方に戻る。「す、すみません。別に初めからそれ頼みにしたいわけじゃないんですが、人の命が僕の魔法にかかってるって思ったら……」 プレッシャーで死にそうで。「勘違いするな。責めたわけじゃない。ただ、延命魔法の重ね掛けが上手くいく保証はないと伝えておく」「ど、どうしてですか?」「リュネットの場合、最初に延命魔法を掛けた時点で、"欠けていた臓腑"の代替物が揃っていた。しかし、今のネイヴァンの場合はそうじゃない」「代替物、ですか……」 穴の開いた心臓の代わりとなれるもの。それは別の無傷な心臓。 小さな疑問が湧いた。確か、エルドリスの妹リュネットは、町の外で魔物に遭遇し、内臓のほとんどを食われた、と。ならばその時エルドリスは、どうやってそれら内臓の代わりを見つけたのだろうか。 ネイヴァンとラシュトの間で、空気が爆ぜた。 僕の意識はそちらへ奪われる。 戦いはネイヴァンが明確に押していた。延命魔法により死の恐怖を感じずに戦える男。躊躇なく相手の懐へ潜り込み、急所を狙い続ける。

  • 生きた魔モノの開き方   31踊目:死へ向かう舞踊

    「ネイヴァン・ルーガスッ!」 ネイヴァンが立っていた位置でエルドリスが叫ぶ。二人の場所が、入れ替わったのだ。 ネイヴァンは倒れ、左胸に刺さった槍は、スライムのように溶けて逃げていく。その槍の抜けた穴から尋常じゃない量の血が溢れ出す。 左腕の痛みを、一瞬で忘れた。 僕はほぼ反射的にネイヴァンへ駆け寄り、回復魔法を発動した。だが初歩の初歩たる教科書魔法だ。山火事にコップ一杯の水をかけ続けるようなもの。燃え尽きるスピードの方が圧倒的に早い。「虚の脈息《ルクス・エヴィータ》」 エルドリスの手がかざされて、真っ赤な胸の穴が、濃い白の光に包まれる。「回復魔法では間に合わない」 延命魔法だ。これでネイヴァンは、30分は生き長らえる。だが延命魔法は"致命傷を負っていても一定時間生きられるようにする"だけで、"致命傷を治す"わけではない。だからその30分の猶予期間に回復魔法で傷ついた臓器を――穴の開いた心臓を治療しなくては。 白い光が消え、血の止まったネイヴァンが、「やってくれるじゃねえか」と呟きながら上体を起こす。「ネイヴァンさん、まだ動いては――」「ああん? 殺されかけて泣き寝入りしろってぇ?」「治ったわけじゃないのは、その痛みでわかっているでしょう!?」「さあな。どういうわけか、大して痛くねぇんだ」 エルドリスの延命魔法は、命の期限を延ばすだけの魔法。かつて彼女が『30分クッキング』の視聴者に向かい『痛覚には何ら影響ない』と語ったとおり、痛みは消えていないはず。本来ならば起き上がるどころか話すことすら、呼吸すら辛いはずなのだ。 その痛みを超越しているのだとしたら、それは大量出血による血圧の急低下やアドレナリ

  • 生きた魔モノの開き方   30傷目:ホップ、ステップ、ジャンプ

     四、五メートルは上から落ちてきたのにケロリとしているラシュトを見て、僕は寒気を覚えた。やはり、コレと戦うのは無謀だ。「エルドリス」 逃げましょう、という意味で僕は彼女を呼んだが、反応はない。彼女の碧い眼差しはもはや、人間離れした少年へと釘付けになっている。「呼ばれてるよ、綺麗でかっこいいお姉さん」 ラシュトがくすくす笑うが、エルドリスの表情は能面のようにぴくりとも動かない。 戦《や》る気なのだ。 僕は覚悟した。そして気持ちを、いかに逃げるか、から、いかに捕らえるか、に切り替える。 ネイヴァンも僕と同じ考えに至ったようで、ラシュトに正対して重心低く立ち、利き手の拳を握っている。「アハ、そうこなくっちゃ。活きの良い獲物は好きだよ」 ラシュトの笑みが深くなる。「ぬかせ」 とネイヴァン。その拳が赤い光に覆われる。 それが開戦の狼煙《のろし》となった。 高らかな笑い声とともに、ラシュトの体がねじれて変形する。溶けるように輪郭が崩れ、次の瞬間――エルドリスと瓜二つの姿がそこに立っていた。「……悪趣味め」 エルドリスは即座に間合いを詰め、ナイフで自分と同じ姿の首を一文字に切り掛かる。後ろに飛び退いた白い喉を刃が掠め、赤い血が僅かに飛び散る。 ラシュトは軽やかに距離を取ると、今度はネイヴァンの姿に変わる。口元を歪めて、挑発するように舌なめずりした。「なあエリィ。魔物とヤったことあるか? 俺で試してみるのはどうだい」「ネイヴァン・ルーガス、こいつを黙らせ

  • 生きた魔モノの開き方   29戦目:お待たせ

     ラシュトを振り返った僕たちはすぐさま迎撃体勢をとった。そこにいるのは、どう見ても人間の少年。けれどネイヴァンが言ったとおり、人間ならば砂浜からの帰還に数時間は掛かるはず。 十分やそこらで戻ってこられたということはやはり、「きみは、人間ではないんですかっ……?」 ラシュトは口角を引き上げ、悪戯っぽく笑った。「怖いお兄さん、僕から見たらあなただって、純粋な人間には見えないよ?」「黙れクソガキ!」 ネイヴァンが吼えるが、少年は意にも解さず楽し気に続ける。「そうそう、まだ答えを聞いてなかったね。どんなふうに殺されたいか教えてくれる?」「それはこちらの台詞だ。希望どおりの殺し方をしてやろう。こちらには名のある脚本家兼演出家と、魔物を開きなれた調理人、そして万能な調理助手《アシスタント》がいる」「おおっと。あなたたちやっぱり、死刑囚じゃなかったんだね。じゃあそうだなぁ……こんなプロットにしてよ。まずは冒頭で、パーティ全員毒蛇に噛まれて死ぬ、って」 次の瞬間、ラシュトの姿がぐにゃりと歪み、肉が変質する嫌な音が響いた。皮膚が硬質化し、暗い色の鱗が連なっていく。彼の身体は分裂するように長く伸び、それが何本にも分かれていく。 無数の黒い蛇。くわあ、と開かれた口には巨大な牙。そして牙の先から滴る毒液。 硬い鱗を持った蛇たちが地面を這う。 ズズズ……ズズズ……。 この音……! 僕は気づいた。蛇の鱗が岩に擦れる音。これは昨夜聞いた音と同じ。 あれは何かを引き摺った音じゃなく、無数の蛇が、岩壁に開いた隙間を潜った音だったんだ。 ラシュ

  • 生きた魔モノの開き方   28骨目:おまえはだれだ

     僕たちは光の雨粒に打たれた白骨遺体を見つめていた。人間の形を保ってはいるものの、ところどころ損傷が目立つ。とりわけ頭蓋骨は縦に真っ二つに割れていて、致命傷の跡なのか白骨化後の傷なのかは知れないが、異様だった。  骨の表面には、雨水や泥の跡がうっすらと残っている。 そして絡みつく、僕が放った絶対拘束《トータル・フェター》の蛇。その意味するところはつまり、「これは囚人の――死刑囚の遺骨です」「誰なんだよ」 とネイヴァン。「わかりません。でもラシュトの部屋の奥にあったんですから、ラシュトの知り合いなのでは?」「うーむ……でもあいつ、他の死刑囚とつるむようなタイプか? 殺しちまいそうだろ」「知らないですよ」「あ、そうだ。これは聞いた話だが、人間の遺体が雨風に晒された状態で完全に白骨化するには、少なくとも一年かかるらしいぜ。となれば、この遺体は一年以上前にこの島へ送られた囚人のものだ」「そんなの、数えきれないほどいます」「だよなぁ。……新人君、識嚥《シエ》で食ってみろよ。それでわかるだろ」「嫌ですよ! 冗談じゃない!」 この男はなんてことを言うんだ。 エルドリスが小さくため息をついた。「断られるに決まってるだろ。頭を使え、ネイヴァン・ルーガス」「なんだよエリィ。じゃあ他に方法があるっていうのか?」「だから頭を使えと言っている。これまでの情報を総合的に考えてみるんだ。まず、この場所はラシュトのねぐらの奥にあって、ここに繋がる通路は岩壁によって遮断されていた。だが完全な遮断ではなかった。岩壁には隙間があったし、ここの天井にも隙間がある」「それが何なんだよ」 次に、とエルドリスはネイヴァンの問いかけを無視して続けた。

  • 生きた魔モノの開き方   27殺目:快楽殺人者の憂鬱

     頭が重い。手足が思うように動かない。体が痛い。 目を開けると、冷たい岩肌の床が視界に入り、その先に、赤々と燃える焚き火が見えた。「おはよう、怖いお兄さん」 楽しげな声が降ってくる。 顔を動かして声のした方を見ると、ラシュトが焚き火のそばに座り、金属製のナイフを弄んでいた。彼は木製のナイフしか持っていなかったはずなので、それは恐らくエルドリスの持ち物だろう。その唇の端は愉快そうに吊り上がっている。「あなたたちさ、昨夜食べたセフィアベリーと今朝食べたヴェルド、食べ合わせって考えたことある?」 唐突な問いかけを聞きながら、頭の中で警鐘が鳴り続けている。手足が動かないのは縛られているせいだ。しかも手は背中側で括られているため、身を起こす支えにもできない。 エルドリスとネイヴァンも目を覚ましていたようで、すぐそばで動く気配がする。「セフィアベリーはね、胃でなかなか消化されないんだ。だからひと晩経ったくらいじゃまだ、胃の中に残ってる。それで、ヴェルドと混ざると……さ、あっという間に有害成分に変わる。そうなると、人間は――」 ラシュトはそこで言葉を止め、ゆっくりと笑みを深めた。「――昏倒してぐっすり眠っちゃうんだよ」 ネイヴァンが舌打ちする。本当は悪態のひとつも吐きたいところだろうが、彼とて今、この不利な状況で少年を煽るリスクを考えないわけがない。 エルドリスも同様だった。いつもネイヴァン相手に流暢に飛び出す嫌味が今は鳴りを潜めている。だが、彼女の無念は僕ら以上だろう。調理人である彼女にとって、毒の生成に食べ合わせを使われること、そしてそれにまんまと引っかかってしまったことは、屈辱にも近いはず。「あなたたちは運が悪かった。でも逆に僕はものすごく幸運だ。い

  • 生きた魔モノの開き方   26喰目:グラングの塩焼きとヴェルドのハーフカット

     なんだ? どういうことだ? ラシュトはどこへ消えた? 僕はエルドリスとネイヴァンを起こし、事の顛末を二人へ伝えた。 ネイヴァンが点火魔法で焚き火に火をつけ、洞窟の中に鮮やかな視界が戻ってくる。僕たちは壁面を丹念に調べ始めた。叩いたり、押してみたり、突起に指をかけて引いてみたり。しかし――「特に変わったところはないな……」 ネイヴァンが首を水平に振る。壁面を構成する岩は、どれもただの岩でしかない。床も、下に抜け穴がないかと三人で調べてみたが、何も見つからなかった。 僕たちが調査を続けていると、外から小鳥の鳴き声が聞こえてきた。「朝か」 エルドリスは立ち上がると、部屋の入り口へ向かっていく。「どこへ行くんです? もう砂浜へ戻りましょう。ネイヴァンさん、転移魔法をお願いします」「少し待て、念のため洞窟の外を確認する」「確認って何を! エルドリス、待ってくださいっ」 僕は洞窟へ入っていくエルドリスを追った。エルドリスは歩きながら僕の質問に答える。「確認するのはあの部屋の外側だ。私たちはここに入ってくるとき、蔓に覆われた入り口しか見なかった」「それが何なんです?」「あの部屋――あの広い空間には外気が流れていたな。つまり、僅かだが外部と繋がっているということ。その繋がっている場所を外側から見れば、わかるかもしれない。内側を調べてもさっぱりだったが、子どもひとり通り抜けるだけの隙間の手がかりが。あくまで小さな可能性だが」「わかりました。じゃあ、洞窟の周囲をざっと見て、そしたら浜辺へ帰りましょう」「おいおい、新人君。なんだか妙に焦っちゃいねえか」 後ろから付いてきていたネイヴァンが飄々と言う。彼にはわから

  • 生きた魔モノの開き方   25食目:ノルクの干し肉とセフィアベリーのスープ

     ラシュトに導かれ、僕たちは洞窟の中へと入っていった。 ひんやりとした空気。足元の地面は剥き出しの岩肌で、場所によっては水滴で湿っていて滑りやすい。壁面には光る苔や菌類がまばらに張り付いており、それらが様々な色合いでぼんやりとした微光を放っていた。天井は標準的な成人男性の背丈ぎりぎりくらいの高さしかなく、長身のネイヴァンは常にかがみ気味で、何度も頭をぶつけそうになっている。 洞窟の奥へ進むほどに、湿気と冷気が増していく。水の滴る音がどこからかポチャン、ポチャンと反響する中、ラシュトは楽しそうな鼻歌を歌う。 やがて道が開け、僕たちは広々とした空間へと出た。 天井は高く、壁面は無数の岩が積み重なった形状をしている。その岩々の隙間から新鮮な外気が入り込み、ゆるやかな空気の流れを生み出していた。 中央には焚き火の跡があり、奥には乾いた枯草を敷いた簡素な寝床がある。物を入れる木箱や簡素な木の机、革袋のようなものまであり、それなりの生活を営んでいる様子が伺える。「ここが僕の部屋だよ。まあ、ちょっと狭いけど、十分だよね?」 ラシュトは振り返って、にこりと微笑む。「なかなか悪くないな」 エルドリスが周囲を見回しながら呟いた。「きみが一人でここを作ったのか?」 ネイヴァンが少し驚いたように尋ねると、ラシュトは得意げに頷いた。「そうさ。死刑囚島《タルタロメア》は危険だけど、こうしてちゃんと居場所を作れば生きていけるんだ。さあ、座って」 ラシュトの言葉に従い、僕たちは焚き火の跡の周囲に腰を下ろした。「さて、晩ご飯の準備をしようかな」 ラシュトは焚き火の残骸に火をつけ直し、部屋の端に置かれていた木箱から干し肉らしきもの

  • 生きた魔モノの開き方   24夜目:紅い魔モノの棲む処

    「おいおい、新人君、今なんて言った? 俺の聞き間違いか?」「聞き間違いじゃありません。彼はA級殺人犯です」 ネイヴァンは眉をひそめて、少年をまじまじと見つめる。しかし、見たところでわかるものでもない。囚人に、その罪状と等級ごとに刻まれる魔導印は、人道的な理由により監獄の監督官にしか見えないようになっている。「死刑囚島《タルタロメア》に送られた囚人の生き残りか」 エルドリスが冷静に呟いた。 そうでしかあり得ないと僕も思っているが、疑問は残る。「最後に死刑囚が送られたのは約一か月前です。仮に彼がそのときの死刑囚だとしても、一か月間この島で生き抜いたことになる。そんなのは前代未聞です。大抵は数日で魔物に襲われて命を落とします」 少年に注意を払いつつ小声で話していると、少年は突然にこりと微笑んだ。「ねぇ、あなたたちも死刑囚?」 不意に発せられた問いに、僕は思わず違うと答えそうになったが、その前にエルドリスが進み出て答えた。「そうだ」 僕はぎょっとして彼女の横顔を見る。その表情には何か思惑がありそうだった。 少年は興味深そうに僕たちを見つめながら、「罪状は?」「連続強盗殺人。三人ともグルだ」 少年の目が楽しげに輝いた。「へぇ! じゃあ僕と似たようなものだね」 それは笑顔で言う台詞か? 背筋にぞくりと寒気が走った。「僕はラシュト」 少年――ラシュトに促され、僕たちはエルドリスから順に名乗った。「ラシュト

สำรวจและอ่านนวนิยายดีๆ ได้ฟรี
เข้าถึงนวนิยายดีๆ จำนวนมากได้ฟรีบนแอป GoodNovel ดาวน์โหลดหนังสือที่คุณชอบและอ่านได้ทุกที่ทุกเวลา
อ่านหนังสือฟรีบนแอป
สแกนรหัสเพื่ออ่านบนแอป
DMCA.com Protection Status